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21世紀セミナーレポ vol.13 講演抄録吉村禎治先生講演 「院長に勇気を、スタッフにやりがいを、患者様に希望を」(2)

 私は歯科関係の経営雑誌が好きで、ほとんどの種類を購読しています。『歯科医院経営』、『歯界展望』や『歯科評論』、『クイント』など全部買っています。こういうところに結構情報があるのです。月刊『歯科医院経営』創刊の記事から一部を紹介します。
『本格的少子高齢社会へ入り、診療報酬の引き下げ・社保本人三割負担など、歯科医院の経営は大きなターニングポイントを迎えています。もはや明確な診療理念・方針をベースに、優れた経営センス・マーケティングセンスを取り入れ、優れた治療・技術をアピールし、優れたスタッフを育てていかない限り、患者さんを増やし、過当競争を生き残っていくのは困難な時代となってきました』。
 書いてあるのは当たり前の事ですが、これが難しいのです。生き残るのが困難な時代、本気で患者様のために努力しないといけない時代になってきたということだと思います。

痛くならないと患者さんが来ない現実

 ある会社のパンフレットを見たときに、面白いことが書いてあるなと思ってとっておいた中に、『昨年4月に診療報酬点数表の改訂だけでなく医療保険制度の抜本的な改革が行なわれた。この改訂によって日本中の医療機関は平均2.8%の売り上げ減少を余儀なくされた』という話が載っています。どういうことか簡単に説明すると、まず売上が1000万円あったとします。経費が900万あったとします。すると残りは100万です。ところが、売上が2.8%落ち込むと972万円になってしまいます。経費は変わりませんから、72万円しか残らないことになります。100万残っていたのが72万円しか残らないのです。ということは、利益は一気に28%も減少することになるのです。こういうデータを見せられると不安になります。
 その後に『厚生労働省は、医療保険制度ができた後、人口2000人に1施設という割合で歯科の設置を推進してきた。しかし近年歯科が急激に増加し、1施設あたりの人口が全国平均で1945人と2000人を割り込むようになってきた。特に都市圏は顕著で、なかでも東京は1施設あたりの人口が1171人、1万300(平成14年)の歯科医院がひしめく激戦区となっている。』と書いてあります。東京の1171人という数字は、ひといないと読めます。この問題は東京だけではありません。これから日本全国がこうなっていくわけですから、明日は我が町だということです。ここにも書いてありますが、口の中に問題のある人が7割だといいます。しかし、そのうちたった1割しか歯科医院に通院していないと書いてあります。歯科医院に行く動機は「歯が痛くなったから」です。我々の医院にも検診ではほとんど来ません。検診してほしいという人も100人にひとりはいますが、あとの99人はインレーが外れた、腫れた、噛めないなど、なにか困ったことがあってから来て、痛くなくなったらもう来ません。
 ここには「自分の歯の状態を自覚させ歯科に通ってもらう手段さえあれば新たな市場を獲得できる」と書いてあります。また、「患者さんは多少混んでいてもいいから丁寧な治療をしてくれる医院に行きたいと思っている」という調査結果も出ているとあります。そして重要なのは、「医師が患者にわかりやすく説明を行った上で、患者様の同意を得て治療を行うことである」といいます。そうすれば、その患者様はリピーターになってくれて、口コミで広報活動を行ってくれるようになると言っているわけです。しかし、なかなかこう文字で書いたようにうまくいきません。
 下の【図1】は1999年の保健福祉動向調査ですが、やはり口の悩みがある人は総数で約70%です。年齢別にみても35〜64歳で80%の人は悩みがあるということを訴えています。
 【図2】は歯科受診率です。受診継続中が約6%、受診有という人が約35%、受診無という人が60%近くいます。これは考えないといけません。歯科医院がこれだけあるのになぜ行かないのでしょうか。どこでも行けるはずなのに国民は行かないのです。国民の目が歯科に向いてないということです。
 次の【図3】は歯科の検診率です。検診有が20%弱です。一般的には不詳も入れると約80%の人が検診したことがないわけです。なぜでしょうか。「検診に行ったら削られる」「どこも悪くないと思ったのに、検診に行ったら何か詰められた」。それでは「検診」ではありません。
 また、【図4】の円グラフは別のデータですが、4人に一人は「カリエスがあると思う」と答えています。実際に「カリエスがある」と答えた人と合わせると約70%はなんらかの問題がある人で、健康な人が約30%です。でも、その人達のうち15%しか治療で通院していません。56%は問題があっても通院してないということです。この人たちの意識を何とか変えないといけません。これは難しい問題です。

「歯科医」の評価は10番目

 これも歯科新聞から借りた記事ですが、『「あなたの歯科医院は繁盛しているだろうか?」こう投げかけると「この厳しい歯科界の現状を考えたら、とても繁盛なんてするわけがない」という答えがかえってくるだろう。もしくは「医療に金儲けの概念を持ち込むとは何事だ」とお叱りをうけるかもしれない。しかし、医院を運営しているあなたは、紛れもなく経営者なのである。世の中の好不況にかかわらず、あなたは資本主義経済の渦中にいる。この社会システムの中では、利益を生まないことは罪悪である。あなたはスタッフを抱え、家族を抱え、そして、患者を抱えている。あなたの医院がもしマイナスのサイクルにはまっているのなら、あなたの周囲に不幸をもたらしていることになるのだ。自身の医院をとりまく状況について考えない日があってはいけない』こう書いてあります。少し前までは考えなくてよかったのです。毎日診療して自分一人ちゃんとすればそれなりに生活もできるし、スタッフにも給料を払えました。だんだんそうはいかない時代になってきました。
 これは私の過去の経験ですが、スタッフが2、3年で辞めるということが繰り返されていました。たった3年で卒業というのは、本来考えられないことなのです。ようやく1年目ではそれなり、一生懸命がんばって2年目になってちょっとわかってくる、しかし、3年目になると嫌になってしまうのです。そして、その都度求人誌に出すのです。以前は求人しても人がなかなか来ませんでした。ましてや衛生士さんがなかなかいなくて、とりあえず面接した人を採用します。こちらには選択権は無いのです。でも、その人がいい人材かどうかわかりませんし、いい人材であったとしても育たないで辞めてしまっていたのです。したがって、予約表も埋まりません。昼間はとても暇でした。昼から4時ごろまで掃除タイム。夕方からやたらと忙しくなります。スタッフも走りまわって仕事して、こんな状態で果たして患者さんは満足したのでしょうか。もうジレンマでした。「この人昼間きてくれたらいいのに」と思いました。その結果やはり新患は減りました。「なんや、ここ忙しいなあ。ちゃんと見てくれるとこ行こう」となります。毎月レセプト件数がじわじわと減っていき、院長もスタッフも気が重く暗い顔をしていました。もちろんマイナスです。
 2003年度職業信頼度調査によると、歯科医師の信頼度は第10位でした。私は、いろいろな職業がある中からこの職業を選び、この仕事に誇りを持ってやりがいも感じていますが、世間の評価は10位なのです。ここで注目していただきたいのは、年代別の信頼度です。10代20代は結構いいのです。今はどの医院も綺麗だし最新設備も整えて、おしゃれで対応も改善されています。しかも若い人は難しい治療も必要ないです。ところが30代40代になると順位はやや後退しています。そして、50代からはかなり後退しているのです。50代というのは様々な経験を積んだ人達で、あちこちで「あの医者はああだった、こうだった」と色々と話しているのです。一般的に、50代ころから歯周病が進行して歯を失うケースが多くなるので、「歯医者に通っているのに歯を失う」「行くたびに歯を抜かれた」というのでは、自然と足が遠のきます。この人達に、ものすごく不人気なのです。気をつけたいのは、この人達は30年後も元気な人達だということです。

自院の運営を分析する

 1ヶ月の新患数の約10倍がレセプト件数だというデータがあります。再診療は新患の3倍が目安で、一日に1台のユニット当たり10人〜15人ですが、平均保険点数は500点〜600点でしょう。ユニットが3台の医院でだいたい1日15000点。どんなにがんばっても27000点です。1ヵ月20日として30万〜最高54万点くらいです。東京都は1ヵ月のレセプトが160枚です。1日20人で計算すると約300万円くらいになります。
 次の図は種市良厚氏の著書『教科書にはない、歯科医院経営の話』からの抜粋です。気が付いたのですが、ドクターの数はチェアー台数の約半分、1日の患者数はチェアーの約10倍になります。新患数はチェアーの約10倍、レセプト件数はチェアーの約100倍です。
 最近は広告会社も、ビジネスマナースクールの医療サービスコースの案内を出しています。マナーは大切なことなのですが、ビジネスマナーや一般向けサービスを歯科に応用しようとしても、なかなかうまくいきません。スタッフの応対を改善しようとマニュアルを見てみても、「教科書的」なことしか教えてくれません。当院では、色々工夫してマナーや言葉使い等を、きちんと教えています。こういうマナーや言葉使いなどは、大学でも教わっていません。しかし、飲食店でも一流のところでは、専門のマニュアルがあって、スタッフはきちんと練習してお客さんに接しています。売り場もそうです。それなのに当院では、自己流でなんとなくいいなと思ったやり方がなんとなく身について、そのまま使っているというケースがほとんどでした。ビジネスマナーセミナーなどでも教えてもらえるわけですが、これはできれば我々サイドで、きちんと協力できる、勉強ができる環境を作りたいと考えています。

治療のエスカレーター

 これは、口腔衛生学会誌の1995年疫学調査からの引用ですが治療予後の現実ということで、各治療の寿命が載っています。
 それによると、たとえば10歳、小学校4年生でむし歯になったとします。それで歯医者に行って、きれいに治療しましょうということで削ってアマルガムを詰めました。そうすると7.4年もつわけですから、17.4才で悪くなって歯医者に来ます。アマルガムは色が悪いからレジンにしようか、ということでレジン充填をします。レジンは5.2年もつといわれていますから、次は22.6歳です。またむし歯になって来院します。これはもう詰め物は無理だからインレーにしよう、ということでインレーにします。これも5.4年しかもちませんから、次は28歳です。歯科医院に行くと、全部削って被せるね、ということでクラウンにします。普通の人は被せたらずっともつと思っています。「金属を被せたらもう悪くならないんでしょう」とよく言われるのですけど、そうはいきません。クラウンは7.1年といわれているので、また悪くなって35.1歳の時にもう一回被せなおしましょう、となります。それがまた外れて、神経をとって、また被せるというのが42.2歳です。それで、もうそろそろだめだねと、49.3歳の時には抜かれてしまいます。ブリッジにしても8年しかもたないとすると、57.3歳でまた作り直します。こんなサイクルでしょうか。ということは50年もたないということが多いのではないでしょうか。これでは信頼が得られませんので、これからは、予防・ケアが必要なのです。
 当院の運営目的は、「患者様の幸せのために」口の健康を回復し、その健康を維持することです。これが診療理念で、私はずっとスタッフと患者様に言ってきました。このことだけを言い続けてきました。

[構成 編集部]