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21世紀セミナーレポ vol.13 講演抄録吉村禎治先生講演 「院長に勇気を、スタッフにやりがいを、患者様に希望を」(1)

はじめに

 本日はお忙しい中、全国各地よりセミナーにご参加いただきましてありがとうございます。
 このセミナーを開くきっかけは、コムネットの機関誌Togehterの中に院長インタビューというコーナーがあり、今年の5月に先生をぜひ取材したいということで、来ていただきました。当日は、雨が降っていたにもかかわらず、キャンセルなくほぼ患者さんが来られました。それとスタッフが非常に明るい。いきいき働いている。しかも、患者さんがみんな元気でスタッフと和気藹々と話しているという姿をみられまして、「先生のところのパワーはすごいですね。是非、そのパワーをコムネットの会員の先生方にお分けしてあげてください」ということで、今日のセミナーが実現したのです。
 まず、我々が日ごろ行っている歯科医療とはなにかということを考えてみたいと思います。私が考えるには歯科医療というのは人々がもとめる非常にハートフルな仕事だと思います。これほどやりがいのある仕事はないと思いますし、私はこの仕事について良かったと思っています。そこで、例えばスタッフの中に一人でもこの職業がつまらないな、嫌やなあというような人がいたら、その人は多分その仕事を仕事として、またはお金のためと割り切っている人です。そのスタッフが1ヵ月一生懸命働き、給料日がきました。先生から、1ヵ月ご苦労さんということで、給料が渡されます。そのスタッフに聞きました。「この給料は誰からもらったの?」多分「院長先生です」と答えるでしょう。そのスタッフにしてみれば1ヵ月間院長の手となり足となり、また頭脳となって働いて、いただいたものなのです。しかし、実は、それは患者様の受けた医療サービスに対する代償です。ですから患者様が払われたお金がスタッフにいっている。ということは患者様の満足が低ければ、それは患者様にとっては非常に高い代償なわけです。今は、より良いものがより安くという時代で、100円ショップにいってもとても100円では作れないような物が売られていますが、価値のないものに人はお金は出しません。ですから我々はそれだけをいただくお金の付加価値、価値基準を作っていかなければならないと思うわけです。
 今日の私のお話のタイトルは「右肩あがりの歯科医院運営を目指して」としています。「医院経営」としなかったのは、「歯科医院経営」というと、私にはそろばん勘定という感じがするからです。
 私は「院長には勇気をもってもらいたい。スタッフにはやりがいを感じていただきたい。患者様には希望をさしあげたい」ということなのです。最終的にはやっぱり患者様が「行きたくなる歯科医院」にしようということが最終的な目標です。我々歯科医療というのは、もちろん技術がなければ補綴もできませんし、歯の健康を守ることも出来ません。もちろん技術が根本だと思いますが、技術だけで患者様が満足するかというと、決してそうじゃないということを私は感じていました。その他にスタッフの応対です。それから医院の方針、これが非常に大切だと思うのです。
 私も、今年10月で20年目になります。20年間やってきて、やはり山あり谷ありで、スタッフとうまくいかないという時期もありましたし、いろいろ大変なこともあったのですが、出来ることから少しずつ解決していこうということで、階段を一歩一歩上がるようにしていったわけです。院長はもちろんリーダーです。最高のリーダーです。ですから改革する勇気も必要なわけです。医院を繁栄させるにはもちろん優秀なスタッフが要ります。でも優秀なスタッフというのは求人して集まるものではありませんし、院内で切磋琢磨して育てていかなければいけないと思うのです。院長はスタッフにやりがいのある仕事を提供するというのが院長の大切な仕事だと思います。それと、患者様には希望です。希望というのは治って終わりではなくて、やはり不安を取り除き、健康が維持できる、そこが一番大切な希望だと思うのです。また将来悪くなるんじゃないかなという不安から開放してあげる、そういうことが非常に大切だと思います。そのために当院ではスタッフと共に患者さんをサポートしております。

歯科界をとりまく現状の把握

 歯科界をとりまく現状についてお話し致します。まず、当院のプロフィールをお話ししたいと思います。私は1984年昭和59年10月1日に開院いたしました。この日は、ご存知でしょうか。歯科界にとっては特別な日なのです。というのは、9月30日までは、社保の本人の負担がゼロ円だったのです。ゼロ円ということは、どのような治療を行っても、保険であれば本人負担額はゼロだったということです。そういう中で、10月1日を迎えるのです。阪神が優勝しましたが、優勝セールが終わってからお店を作ったようなもので、当然売れるわけがありません。私は開業する際、もちろんリサーチをしました。
 患者数は1日15〜16人と言われました。私は30分に1人診ようと思っていましたから、8時間で15〜16人でちょうどいいと思いました。チェアも最初は2台で、スペースが広すぎてもてあますこともありました。スタッフは私と技工士をしている弟と、衛生士の3人。そこそこやっているうちに翌年には患者様も増え、ユニットも1台増やしました。それから2年後、少々忙しくなりまして、先生を入れようか、スタッフを増やそうかという程で、ユニットも5台に増えました。こうしてみますとこの時代は順調に見えますが、結構大変でした。身体もきつかったです。身体をこわすよりはと思い、勤務医の先生にきてもらいました。そんな状況なので、医院の方針もなにもありませんでした。ただこの状態で15年間満足していたのです。
 ところが今から5年ほど前、ある経営セミナーを皆で受けてみることになりました。きっかけはそういうセミナーに対する好奇心だったのですが、ここに集まった先生がすごい先生ばかりで、とても刺激を受けました。その当時はみんな「これからどうしたらいいのだろう」と、悩んでいました。2年程前まで、毎月皆で集まって勉強会のようなものを開き、12時過ぎまで話し合っていました。その時顔を出していた先生が、「これからは予防の時代だ」と言ったのです。私はリコールもやっていましたし、それなりにやっていたので、その時は考え方が変わりませんでした。
 そうこうしているうちに4年くらい前、山形県酒田市の熊谷先生のセミナーに出席しました。その時、まさに『目からうろこが落ちる』というくらいの衝撃を受けました。今でも忘れません。そこで、去年、一念発起しまして、医院の3分の2くらいを改造しました。久しぶりに来た方は「ここ場所が変わったんですか?新しく建替えたんですか?」とおっしゃいます。そのくらい前の印象が残っていません。目的は、スタッフも充実していたし、予防も取り入れたいということで改築しましたが、15年間そういう考えはありませんでした。私自身、そんなに患者様もこないし、これで十分だろうと思っていた時期もありました。
 私は大阪市の淀川区というところで開業しております。今はどこも一緒です。都心だから、地方だからという地域差はほとんどなくなっていると思います。淀川区も、平成10年には101件の歯科医院ができ、1件あたりの人口が1600人を割っています。平成15年になると、1500人を割っています。今後も確実に1件あたりの人口は減り続けるでしょう。
 1950年代後半から1970年代は、患者様があふれていた時代です。この時期は高度成長時代と重なります。 医療経済実態調査によりますと、歯科医院数は2000年で約63000軒です。2010年には7万軒、歯科医師の数は11万人になると予測されています。ですから、歯科医院数は年間1000軒ずつ増え、歯科医師は1700人ずつ増えつづけるわけです。歯科医院一軒当たりの患者数が1980年に31人くらいだったのが1990年には17人になっているのです。歯科医1人当たりの患者数でいうと約25人が約14人に減ったことになります。そして、国民医療費は1990年30兆円から2015年には60兆円に、2025年には81兆円になると予測されています。そうすると患者窓口の負担は引き上げざるをえないわけです。老人医療の負担も引き上げざるをえない状況です。我々にとっては、診療報酬は引き下げざるをえない。上がったりすること自体がおかしいのです。
 少し経済的な話をすると、歯科医院にどのくらい収支差額があるでしょうか。1990年に164万円だったのが、2000年には122万円、2013年にはこのままいくと0円という見通しなのです。しかし、こうはならないのです。ならないようにしなくてはいけないと思います。さきほど少しふれましたが、社保本人の負担割合が、1984年私の開業した日に1割になって、以後13年間上がりませんでした。その後1997年に2割になり、大きな影響を受けました。過去、社保本人の負担が上がる毎にまとめたデータがあります。それによると、売上も患者数もほぼ2割減ったというデータがでています。6年後の今年4月に3割負担になって、また2割減ることになります。過去のデータをみると、この減少が回復するまでに5年かかっています。したがって、やっと回復したかなというころにまた社保本人負担が3割に上がったことになります。次の予想が2007年ですから、4年後に多分負担率が4割か5割になるだろうという見込みです。回復する前にまた上がるということなのです。この状況を「ゆでガエル現象」に例えた話を何回か聞きました。ご存知でしょうか。鍋にカエルを泳がせて、それをコンロに置き、火をつけます。ゆっくり、確実に水温が上昇していきます。普通なら熱くなったら飛び出るのですが、蛙は水温の変化に気づかずに茹で上がって死んでしまうという話です。要するに外の環境に対応できずに破綻するという例えです。みんなが悪いから自分も悪くても仕方がないという考えは危険です。やはり今自己変革を行っておかないと、手遅れになります。
 【図1】は2000年の日本総人口の年齢別のグラフです。高齢化・少子化と頻繁に言われています。50から54才がベビーブームの時代の人達です。50代の人が男性が約450、女性が約480万人います。これは覚えておいてください。60代も多いですが50代の人が一番多いのです。それに次いで40代。20代より若い人達はとても少ないです。これが今後我々にどう影響するかということを考えていかないといけません。
 【図2】は30年後、2030年のグラフです。2000年に50代だった人は30年後は80代です。男性の80代の人口を見ると、決して多くありません。どういう根拠でこのグラフが作成されたのかはわかりませんが、女性の80代は他の年代とあまり変わりません。ということは今の50代の男性は早く死んでしまうことになります。しかも男女の比率も50代くらいまでは同率ですが、60代を過ぎるとアンバランスになり、女性の比率が高くなります。女性は元気です。特に70代80代の女性が元気なのです。こうなると30年後は、老人は元気なおばあちゃんばかりという時代になります。また、2000年に比べると、人口が11.6%減っています。人が減るということは、高齢化率は32.4%と、高齢化がどんどん進んでいくということです。年金ももらえるかどうかわからないという時代になるでしょう。

[構成 編集部]