歯科界へのメッセージ

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コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

エビデンスを積み上げる

●口腔と全身との関わり

心臓病は、日本人の死亡率でガンに次いで2番目に多く、年間約19万人(死亡者全体の16%)が亡くなっています(2010年人口動態統計・厚労省)。これまで、歯周病と心疾患の関係として、歯周病が悪化して歯周病菌が血液中に流れ込み、細菌性(感染性)心内膜炎を起こしたり、動脈硬化による冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞などの虚血性疾患)を引き起こし、発症リスクが15〜37%も、上昇すると言われてきました。血管壁にへばりつく柔らかいアテローム性動脈硬化症(ASVD)でできた血栓が剥離して脳動脈に運ばれ、血管を閉鎖すると脳梗塞を起こします。そのアテロームの中には歯周病菌が検出されています。こうして、歯周病と心疾患、血管疾患の関連は、糖尿病、低体重児出産、肺炎等とともに「口腔と全身疾患の関わり」の代表選手として歯科界の「常識」となっていました。

●エビデンスがない!?

ところが4月中旬、アメリカから衝撃的なニュースが飛び込んできました。米国心臓協会(American Heart Association:AHA)が、これまでアメリカの医療界でも1世紀以上も前から「常識」となっている歯周病(PD)と心筋梗塞などの心血管疾患(CVD)との関連を否定する声明を発表したのです。AHAの専門委員会が500本の論文を精査したところ、PDとアテローム性心血管疾患(ASVD)については直接的関係があることを確認する一方、PDを改善することでASVDのリスクや発症を低めることができるかについては、未解明で確証がない(エビデンスが認められない)と発表したのです。
それに対して、米国歯科研究学会(American Association for Dental Research:AADR)は、両者の因果関係を検証できる長期的介入研究がこれまでになかったことを認め、今後「疫学、遺伝学、たんぱく質分析学、微生物学、免疫学といった現代の叡智を結集して、疾病の発生機序や、両者の因果関係を解明することが必要である」と表明しています。

●なぜ? 沈黙の歯科界

エビデンスがない、と言われた以上、歯科界はそれに対して、急いで、しかも徹底的に調査研究をすすめ、データを揃えて公に説明する必要があります。その結果「関連がなかった」という結論になるかも知れません。しかし、曖昧なままで「関連性」を説き続けることは許されず、患者や一般市民の「歯科不信」を助長するものになるでしょう。
ところが、AHA声明から1ヵ月以上も経過しているのに、日本においてこの情報に反応したのは「日本歯科新聞」くらいで、他のメディアや学会、8020推進財団、歯科医師会のホームページには反論はおろか何の反応も表明されず、検索すると、相変わらず従来の「歯周病と体の病気」「全身疾患と歯周病」が山ほど表示されます。AHAの指摘を無視して正当性を主張するというのなら、それなりの反論があってしかるべきです。

●調査・研究・分析の好機

いま、マスコミや一般市民の「歯科と全身との関わり」への関心が大きな高まりをみせています。治療費、安全性はもとより、唾液のパワー、噛むこと食べること、予防の大切さ、それぞれ大きな関心事です。他業種の「産官学協同」に倣って、歯科界も、大学も厚労省も歯科医師会も個々の臨床歯科医も業界も一丸となって「全身の健康との関わり」のエビデンスを構築しなければなりません。ほかにも「QOL向上と歯科の役割」「医療経済における8020効果」など、エビデンスを積み上げるテーマはいくらでもあります。
例えば8020達成でどれだけ医療費が軽減されるかというデータも、すでに1996年に調査した福島をはじめ、この数年間の間に兵庫・香川・山梨・茨城の各県当局や県歯が協同で調査を行いデータが出されています。
さまざまな角度から、歯科の果たしている役割を調べ、確かめ、そして知ってもらう活動が人々が、歯科医院に「行きたくなる」モチベーションとなり、「健康産業」として歯科から社会を変える突破口になると確信しています。

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