




最初に私が歯科医療と関わったのは、主人の診療室でした。もう20年くらい前からデンタルハイジーンという本が出版されていますが、その本に1年ほど連載したのをきっかけに、提言をいくつかさせていただいております。最近は日歯広報の中の「ラインマーカー」というコーナーに記事を書きました。ここに、21世紀になってからの世の中に対する私の考え方、それから対処の仕方などを3回にわたって連載しました。
「セレンディピティ」の時代
最近は非常に企業マインドに支配された情報渦時代で、ご自分に一番合うもの、自分らしさ、自分自身として、というものが探しにくい世の中になっています。「価値観の多様化」などと非常にかっこいいことを言っていますけれど、価値観がたくさんあるということは「迷う」ということなのです。自分の思う価値観になかなかめぐり合えないような場面が非常に多くあって、私たちの心が揺れ動き殺伐としてきます。
例えばブランド商品を買ったとします。自分と同じブランド商品を持っている人と出会いますと、「あの人よりもっといいものを買ってやろう」と、バトルが起こりはじめます。
今の世の中は、ITの発達で直接会って話しをしなくても物事がどんどん進行するようになり、交通も通信も発達しました。顔を見なくても可能になっただけ、私どもの表情とか心の動きを相手に示す機会が少なくなってきています。そういう世の中で、自分としての価値観、自分によく合うものを少しでも早く探そうとしています。私はこの現象をセレンディピティと言っています。セレンディピティの語源の中に、「自分仕様」という言葉と同時に「お宝発見」という言葉があります。
田中耕一さんという方が物理化学ノーベル賞をいただいたときに、彼が毎日実験をしている中で、ある時失敗をしたのですが、それをよく見ていたらそれがお宝に変化したという話があります。そういう事からセレンディピティという言葉がだんだん発展したような気がするのです。
私はセレンディピティという言葉が非常に好きです。若い方は特に、今こそご自分仕様を見つけてほしいと思います。お化粧でもカラーリングでも多種多様にあります。だけど自分に合ったものを探して、自分らしいもの、自分によく似合うなと自分で納得がいくものが探せたら、もう「迷わない」ものができます。そういうふうにして、忙しく迷う自分の気持ちを、自分の身体の中に心を入れ込むような形で、落ち着いて、そしてできれば人と対面して、「お宝」を探し出しましょう。
「らしさ」と「信頼」について考える
2番目の連載記事に書いたのですが、「らしさ」と「信頼」について私はずっと考えておりました。ある教授が「親子のような親子でなく、友達のような親子がいい。学校の先生らしくない先生、厳しくなくてお友達関係のような学校の先生との関係がいい」というようなことを、新しい表現としておっしゃいました。その頃をきっかけとして、近頃では上下の差も左右も何もなくなってしまって、みんなが一緒、みんなが同権同等という意識が増してきました。最近も電車の中で子供が靴を履いたまま後向きに座っているので、お隣の奥様が「あの、このお靴をお脱がせになったほうがよろしいんじゃないですか」と言いましたら、お母さんが「あんたにそんなこと言われることはない」と言っていました。これには私、びっくりしてしまいました。これは何なのかと考えました。ところが、ちょうどその日のTV番組で、ウッチャンナンチャンという人が出ていて、言っているのです。「あんたにそんなこと言われることはない」と。あ、なるほど、これが語源であると。どうも私どもはだんだん、いろいろな意味で「らしさ」を失っていく時代になってきましたし、上下関係もなくなりましたし、親が子供に尊敬されることもなければ子供が親を尊敬しようとする心までも失ってきています。
そういう中で、先日日本リテールという会社が毎年行っている職業別信頼度というのを見てちょっとがっかりしたのですが、歯医者さんの順位が当初5位で、9位、9位、そして今13位に下落したというのです。「信頼度」の下落なのです。そしてアメリカのギャロップ社がアメリカで調査をしたところ、なんと歯科医は5位をずっと維持しているというのです。その中では消防士さんが非常に信頼があるとか、弁護士さん、あるいは裁判官などいろいろな職業がありますけれども、看護師、ハイジニストが非常に高位置にいます。日本では、衛生士さんがどうして出てこないのだろうと大変気がかりです。
私は衛生士さんに関しましては本当に何十年も前から「衛生士さんの仕事ってすばらしい仕事、こんな仕事は他にない」というほど支持していて、毎日拍手を送り、毎日悩みには共に悩み、そして休み時間にはリンゴをむいたりブドウを運んだりして大切にしております。何故ならば、私のイメージとして衛生士さんは天使なのです。
「らしさ」の追求=信頼度UP
それぞれがご自分の職業的イメージをしっかり抱いて、そのイメージに対してそのようにふるまい、そのようになっていく、そういう自分らしさ、自分の職業らしさというものが復権すれば、信頼も増すのではないでしょうか。
日本ではメジャーリーグに行ったイチロー選手や松井選手が非常に日本人らしい礼儀正しさと、姿勢のいい折り目正しいパフォーマンスをし、しかもプロとして実績を上げています。それを見て日本人らしい、だからこそすばらしいと言います。最近では「武士道」をみなさんお読みになって、日本人の自己完結的な生活姿勢の様なものをご覧になっていいなと感じる方が多いかと思うのですが、正にその「らしさ」というものは信頼の一番「もと」になるものではないかと思っております。
私のモデリングは、その「らしさ」を振付けていくことなのです。最初にご紹介いただきましたミス日本、ミスインターナショナル世界何位という二人は山梨県から選出されました。私は彼女たちにモデリングを行いました。
彼女たちは「私はミス日本になる、なりたい、なろう」という意志に燃えていました。私と共にミス日本のイメージを共有し、それに向かって振り付けをいたしました。彼女たちは、レッスンの終わり頃には既に「ミス日本」でありました。私は、「ああもうミス日本になっている」と思っていましたから、当日ミス日本に選出された時にはあたりまえだと思いました。そのように私たちは自分の思う理想像になれるのです。
人は思考するように
私がこういう仕事を始めている頃に大きな力にもなり、また非常にショックでもあった言葉があります。これはジェームス・アレンという方の言葉で、「As a Man Thinketh(人は思考するように)※」。私は原本を訳した本を読みました。1ページ目を開いて、フリーズしました。「あなたの思い考えていることは今のあなたそのものです。そして過去のあなたでもあり、未来のあなたでもある」これは非常にこたえまして、以降、私は悪いことは思わないことにしたのです。いつもみんなを愛していると思うようになりました。そうしないと笑顔はできません。患者さんを愛さなければ、優しさは指先にもあらわれない。ひとつの動作の中にも優しさは出てこない。「人は思考するように」、です。今私はそういう意味で、人の成功を共に喜び、悲しみを共にしたいです。
私は歯医者さんが今、いろいろな意味で他のものになりたがっているように感じます。というのは、例えば「代議士になりたい」、「講演者になりたい」、「歯医者さんらしくなく、人に芸術家ですか、なんて言われたい」。そういうふうに思った瞬間から、患者さんにとって信頼できる歯医者さんというイメージが損なわれているのです。それを考えると、自分の思考するものは「怖い」面もありますが、逆に考えるととてもいいことではないでしょうか。これは心理学の大前提である「人は思わぬことはしないし、思うことはする」というようなものと非常に似通っています。必ずや私はこの今の時代に歯医者さんの信頼度が5位にまで上昇することをお約束したいです。そのために私はいろいろな意味でプロフェッショナルとはいったいどういうものなのか、プロフェッショナルは何なのだろうか、といろいろ考えました。その中で私が一番最初にご紹介した「ご機嫌チェック」というのがあります。これは、サービス業につとめるプロは、まずやらなくてはいけないことだと考えています。ご自分のご機嫌が今日はいいな、悪いなと思うことは、サービス業に勤める人の必要なチェックポイントなのです。もしあなたが不機嫌だった時、来院される罪のない方々、あなたの非常に気分の悪そうな顔にふと出会う可愛そうな方々、あなたに何ら憎しみを持っていないのに、あなたのむさくさする顔を見て、本当に傷つくのではないかと思うのです。ですからご自分の気分、気質はプロのステージの中での問題ばかりでなく、やはり社会に対して公害問題にもなるのではないかと思うのです。そういう意味でこのご機嫌(気分・気質)チェックを皆様方にひとつやってみていただきたいと思います。