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21世紀セミナーレポ シリーズ7 講演抄録末竹和彦先生講演 (最終回) 「財産」の生かし方が努力の成果を左右する(3)

 それでは、実際に経営向上のために末竹歯科医院ではどのように取り組んでいるのか、写真を見て頂きながら説明したいと思います。

収入とノルマ

 利潤の追求となると「リストラ」に代表される経費節減がありますが、ここでは単純に収入増加について考えてみましょう。収入をわかりやすい期間で区切ってみると、

  1. 1年の総売上
  2. 1ヶ月の総売上
  3. 1日の総売上
  4. 半日の総売上

が挙げられますが、当医院では1ヶ月の総売上と1日の総売上のノルマを決めています。立地条件のわりには自費治療のパーセンテージが高いとはいえ、あくまでベースは保険診療。計算できる(予測ができる)ということからも、保険診療の点数でノルマの設定をすることに意味があります。先生方の置かれている環境でハードルは高くも低くもすることができますが、少し頑張れば達成できるレベルが適当だと考えています。「目標」ではなく「ノルマ」ですから、「ほとんど達成することが無い」では意味がありません。仮に実労働日数20日、1日2万5千点、1月50万点としましょう。まず、半日働いた時点で合計点数を受付に出させます。そのとき1万2千5百点程度あれば「いいペースだぞ。この調子で午後も乗り切ろう。」となるでしょうし、それより随分少なければ「もう一がんばりしなければ2万5千点はいかないな。」と自分のおしりをたたくことになります。どの商売でもわかりやすいノルマは必要だと考えています。

アポイント帳

 次にアポイント帳(写真1)を見て頂きます。既製のものではなく、ご覧のように大学ノートに線を引いて代用しています。経費を少しでも浮かせるためということではなく、この方が随分使い勝手が良いということから開業以来形態を変えていません。いくつか理由がありますが、なんといっても書き込めるスペースが非常に多いことが最大のメリットです。

  1. 患者氏名
  2. 初診、再初診、再診の分類(色分け)
  3. 初診、再初診時の主訴
  4. 治療内容
  5. 来院されたか、キャンセルか、ブロークンか
  6. 来院されたのであれば待合室で待たれているのか、診療室にすでに入っていらっしゃるのか

の6つの内容を1枚のこの手製アポイント帳でチェックすることができます。大きく見やすい文字でこれだけ多くのことを書き込むためには、たっぷりとスペースが必要なわけです。ちなみにこの分類について提案したのは私ですが、実際に話し合って方法を決定したのは歴代のスタッフです。
 遅刻して来院された患者さんの取り扱いについてもしっかりとしたシステムと意思の統一が必要なところです。先ほど説明したアポイント帳のコピーをチェアーサイドにも置き、ラインマーカー等で書き込んでいくのですが、約束通りに来院されれば青のラインマーカーで名前の部分をチェック、10分遅れれば青で“囲む”、また15分以上遅れた場合は診察できないことも多いため私の指示が必要となります。カルテに添付するメモ紙に予約の時間と実際の来院時間を分単位で記録をさせることで診療室に入って頂く順番についてスタッフ全員がある程度予測することができます。

グッドスタッフ

 歯科医院経営にはグッドテクニック、グッドマティリアル、グッドスタッフの3つの充実が必要であると言われます。グッドテクニックは先生方の歯科医療技術レベル、グッドマティリアルは器械や材料、さらにグッドスタッフ。テクニックとマティリアルのレベルを上げることも難しいのですが、3番目のグッドスタッフを常に確保することの難しさは皆さんも感じていらっしゃることと思います。
 私の歯科医院は現在4名の歯科衛生士と2名の歯科助手兼受付、計6名のスタッフがいます。歯科衛生士はもちろん国家試験に合格して免許を持っているわけですが、歯科助手についても歯科医療事務の免許を取得するように奨めています。今はほとんどの医院でレセコンが普及している時代ですから、医療事務の免許を持たないからといって不自由はないと思いますが、【ライセンス】を持つことによって歯科衛生士に対して『引け目』を感じることなしに自分の仕事に対する『誇り』を持つことができる。自信も出てくる。ひいては患者さんに対して自信のある応対をすることができる。“良い”予約をとることもできる。2次的な効果を期待しているわけです。
 写真の4人(写真2)は歯科衛生士です。卒後3年目が1人、2年目が1人、1年目が2人です。昨年ベテランスタッフの退職が重なったため皆若い衛生士たちですが、全員学ぶ姿勢を持ち、精神的に穏やかで安定している女性たちです。
 次の写真(写真3)は歯科助手の2人です。現在医療事務の免許を取得するべく奮闘中です。近々合格の報告をしてくれるものと信じています。そのときは大きな自信がつき、ひとまわり成長することでしょう。
 忘れてならないのはラボです。スタッフと言うと、つい院内の女性スタッフだけを考えがちですが、同程度に重要なのが技工士のレベルです。かみ合わせで体調が良くも悪くもなることが、エビデンスはないにしろ一般的に認知されるようになりました。仮に先生方が咬合に対して十分な知識を仕入れることができたとしてもそれを形にできるのはほとんどの場合技工士です。当院は現在すべて外注ですが、自分と同じように勉強してくれ、こだわりを持ち、レベルの高いところで喧々囂々やり合うことができる。そのような技工士とおつきあいができています。実際に佐藤貞夫先生の「シーケンシャル咬合」、岩附勝先生のビムラーアプライアンスを中心とした「機能矯正治療」の1年間コースにも一緒に参加してくれ大変感謝しています。

上司と部下

 院内のスタッフは『コデンタルスタッフ』でしょうか、『パラデンタルスタッフ』でしょうか。模範解答は『コデンタルスタッフ』となるでしょうが、私の考えは、あくまで『パラデンタルスタッフ』。私がトップでスタッフはあくまで「部下」なのです。では部下とは何か。『部下とは自分が伸ばしてあげるべき人』です。よほどの大きな歯科医院でない限り、院長先生が医院のトップとしてすべての中心にいて、周りをスタッフに囲まれている。このスタッフの能力を伸ばすように十分配慮しながら「医院力」を向上させていく。これが上司である院長の重要な仕事の一つであるということができます。「人」を育てるには様々な方法がありますが、そのテクニック以上に重要なのは、「育てようとする心」であり、育成とは何かという本質を正しく把握することが必要だと思います。講演会で学ぶ方法論には精通していても心が不十分だと何もできません。これは「育成」という問題の大きな特徴です。ここで一言

『自分のために育てるな。育成は無償の行為である』。

育成

 育成を効果的に行うためにはいくつかの原則があります。

  1. スタッフに学ぶ姿勢がなければならない。
  2. スタッフが恩恵を受けなければならない。
  3. フィードバックは学習効果を高める。
  4. 間をおいた反復は学習効果を強化する。

 まず、1番目の原則ですが、スタッフ採用時に行う一度きりで行き当たりばったりの面接ではこれを判断することは難しいでしょう。ここで登場するのがコムネットの企画商品である「スタッフ採用シート(写真4)」です。
 面接をシステマティックに進めることが可能となる優れものです。その一部をご紹介してみます。
 これ(写真5)はスタッフシートの中で最初に書いてもらうページです。1から6までの質問があります。この中でもっとも参考になる項目が1と6です。1番目の「採用されたら、何年くらい勤務できますか?」の答えに対する私の解釈ですが、1つは意気込みです。人の育成を考えると最低5年は必要と考えていますので自分としては5年以上を書いて欲しい。結婚退職を考えて書いているケースが多く見られますが、概して長い期間を書いているほど意気込み、やる気があると判断できます。1年〜3年程度の記入であればまず採用することはありません。学びたいという意識が欠落していることも明白です。この質問は私たち雇う側に1つのメリットがあります。採用される側は自分の手で例えば「5年」と書くことにより「最低5年はつとめなければならないな」と意識の深いところに植え付けられるようです。つまり自分自身に「あしかせ」をつけさせることができる質問ということになります。6番目の「自分の能力を十分に職場で発揮するためには、どのようにしたらよいと思いますか。」も1と同じくらいに学ぶ姿勢を把握することができます。これは当院の能力のあるスタッフの答えですが、「自分のできることは率先して行い、初めてのことや分からないことは先輩方や他のスタッフに聞いてやれるだけの努力をする。」と書いていました。自分から学ぼうとする姿勢が前面に出ている模範的な回答で、実際に期待通りの働きをしてくれています。他の項目も大いに参考になりますが、1と6を参考にするだけでスタッフ採用時の最低条件である「学ぶ姿勢」を読みとることができる、すばらしいシートだと思います。皆さんも是非利用してください。
 2番目の原則「スタッフが恩恵を受けなければならない」の通り、育成することによってスタッフが何らかの恩恵を受けなければならないし、あらかじめ恩恵をスタッフに示しておくべきです。給料アップは代表的な物による恩恵ですが、精神的なこと、例えば、達成感であるとか、充実感なども紛れもなく「恩恵」です。
 フィードバック効果についてですが、先生方は1度教えたからといって安心されてはいないでしょうか。1度教えただけではできないのが当たり前、また、個人差が大きいことも考慮しておかなければなりません。できたこと、できなかったことを理由とともに明確に示すことが大事です。
 4番目の「間をおいた反復は学習効果を強化する」ですが、これは自分が体験してみるとわかります。ある技術を習得しようとするときに、はまることは必要なことですが、ひっきりなしに頑張るよりも、一定の間をおいてもう一度、さらに二度とトライする方がかえって伸びが早い。このことをスタッフの育成の場合にも当てはめて、新人スタッフが入ってきたときにはまず2週間、かなりきつい期間になりますが詰め込みます。次の1週間は教える量を極力減らし、それらを咀嚼して消化する期間に当てるようにしています。次週からはまた集中的に学ばせる期間へと入っていくわけですが、この時に以前学習したことについての「繰り返し」も一定量入れるというカリキュラム(綿密なものが必要というわけではありません。)が効果的に能力を向上させていくのです。
 長々と話しましたが、端的に1つの文でいってしまえば、太平洋戦争時の山本五十六連合艦隊司令長官の有名な言葉で『やってみせて、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ』ということに集約されるでしょう。まさにこの通りなのですが、最後のフレーズの「誉めること」のなんと難しいことか。非難したり怒ったりすることは誰にでもできる簡単なことなのですが、本当に誉める作業は慣れるまでは相当の困難を伴います。かくいう私も未だにできているとは言い難いのですが、頭の中ではしっかりと理解をしているつもりです。このことをスムーズにできる先生は「人育て」という面で相当なレベルに達していることは間違いないでしょう。言い忘れましたが、もう一つこれに関連して忘れてはならないことがあります。「人は求められるところに行く」ということです。求められるところ=誉めてもらえるところ=大事にされるところ=やりがいを感じる仕事ができるところ。このように考えると次の「スタッフにやる気を起こさせる5つの妙薬」を知っておくことも大変重要なこととなります。

  1. 院長がそのスタッフとともに一定期間に何ができるかを話し合いをして計画する。
  2. いかにしてその仕事を達成するかという計画の立案。
  3. 仕事の割り当て。
  4. 計画の修正、調整。
  5. スタッフに多くの自由を与える。

 上記5つがやる気を起こさせるポイントといえますが、特にスタッフに多くの自由を与えることが重要でしよう。1から10まで指示をされる仕事というのはつまらない。私も経験があるのですが、歯科医師になって1年目の夏期休暇の時期、先輩の先生が夏休みをとり5日間だけ医院を任されました。社会人になって初めて自由を手にすると同時にすべての責任も負わなければならないということで、精神的にも技術的にも歯科医師としてグンと伸びたことを記憶しています。歯科医師、歯科衛生士、歯科助手皆同じことです。自由を与えなければやる気は萎えてその後の伸びも小さなものとなります。
 せっかくですからその「自由を与える」いわゆる「委任」について、効果的な委任のための秘訣を7つ挙げておきます。

1)委任する仕事をスタッフの技量にマッチさせる。
2)委任は徐々に行う。スタッフを一気に仕事に放り込むことはすべての仕事を任せたことにはならない。
3)委任するときにはすべてを委任する。
4)具体的な成果を求めて委任する。
5)スタッフと話し合ってお互いに納得した上で委任する。
6)権限の委譲。仕事に付随する権限も同時に委譲する。
7)一度仕事を任せたら100%任せる。---「君ならどうする?」---

 「人材育成」の最後にいくつかに分けてチェックポイントを書いてみました。これはさまざまな本、プログラム、私の経験からチョイスしたものです。

A ◆ まず模範になれ--スタッフは院長に似る
◆ 信頼なくして育成なし
◆ いやなことは自分がかぶれ
◆ スタッフを玉砕させるな−目配りを完全にせよ
B ◇ スタッフを長所から見よ
◇ 誉める6分に注意4分
C ■ 忙しいほど育成できる--仕事即育成
■ 仕事は教材である
D □ 未経験を与えよ--やらねば能力はつかない
□ 能力を飽和させるな
E ★ 任せて成功させよ--目標を押さえ、方法を任せる
★ 指示は腹八分--過剰指示は脳みそを奪う
★ 「どうしましょうか」厳禁--まず考えを言わせよ
★ 「できません」厳禁

 どうでしょう。先生方はどのくらいできていますか。端的に書いていますので、書いたものを普段近くに置いて、事あるごとにチェックしてみてください。よい戒めとなるはずです。

キャンセル、ブロークン、電話連絡

 当院は知る人ぞ知る予約キャンセルに対して非常にシビアな医院です。2回無断キャンセル(ブロークン)があったらその時点で注意、後にもう1度無断キャンセルがあった場合は以後の診療をお断りしています。そのため間違いのないキャンセルのカウントが必要になります。スタッフに「キャンセル状況を患者さん一人一人で正確に把握したいんだ」と言い、それに対してスタッフが自ら考え行っていることがこの1枚のシートです。カルテと一緒に挟み込んでおり、理由とともにキャンセルとブロークンの状況が一目瞭然です。
 また、以前はかけた電話、かかってきた電話について受付と私はメモ紙でやりとりをしていました。連絡ミス、カードの紛失等何度かあったために、現在はスタッフの考えによりノートをつくり写真のように記録をさせています。まさに「目標を押さえ、方法を任せる」やり方です。その他、掃除当番表(院内を常に清潔にしておくためにはこの程度のものは必要)、末竹歯科医院スタッフ心得、ベからず集など常に意識しておくべきことは消毒コーナーに貼っています。

《以後のスタッフマニュアル作成、リコールシステム、画像診断報告、これからの歯科治療等は各論になりますので割愛させて頂きます。》

[構成 編集部]