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■はじめに誰でも、身の回りの事、特に下の世話は最後まで自分でしたいものです。しかし、トイレで人の手を借りるなど絶対嫌だと思っていても、年を取ると人の助けを借りなければなりません。トイレはまだしも、口の掃除もままならなくなっている高齢者は大勢いらっしゃいます。「自分のことを自分で出来る喜び」 当たり前のことですが、高齢者はこのようなわずかな喜びを、日々の生活の中で求めているのです。 高齢者の望みといえば、病気にならないことは当然ですが、気持ちよく毎日を過ごせるように、1.よく眠れ、熟睡をし、起床時には爽快感を感じること、2.頭がハッキリしていること、3.口の中がさっぱりしていること、4.頻尿や便秘がないこと、5.いつもしっかりと歩けること、6.おしゃべりができ、おいしく食事ができること、7.できるだけキレイでいたいことなど、健康な若い方からするとササヤカな望みです。ササヤカな高齢者の望みを叶え、手助けするために、歯科訪問治療を開始すれば、高齢による身体状況は徐々に低下するかもしれませんが、最後の時期まで歯科関係者の需要が絶えることはありません。 ■質の高いQOLとは、毎朝爽やかに「癒やし」を感じられること「物には順序」という言葉があります。高齢者に対して若い方と同じことを目標に掲げて、指導し、介助しても無理が出ます。まずは、ササヤカな「喜び」かもしれませんが、「よく眠れる喜び」を回復してあげることが第一ではないかと考えます。これまで歯科において守備範囲を広げた議論が進められてこなかった理由は、顔面神経支配筋肉群が全身に及ぼす影響に気が付かずにきたためです。歯科治療の従来の目的が「咀嚼力の回復」であったために、そこを満足させれば総市民が満足するような高いQOLが得られるはずだと、歯科関係者の誰もが信じ切っていたからです。一般市民も歯科関係者と同じように、「ターミナル歯科ケア」が重要だという認識が、表情筋の影響範囲を知らないために希薄なままです。 今でも、歯科はQOLの一部として第一に、「咀嚼能力」を維持することを唱えています。それも当然ですが、その前に、人は快適な呼吸が出来なくてはなりません。口が開いている状態の呼吸(口呼吸)では、口腔筋機能学からも十分な酸素摂取量は不可能です。熟睡ができて初めて、爽やかな朝の目覚めがあるのです。 これらの範囲までケアする表情筋賦活(ふかつ)プログラムを含まなければ、ターミナル歯科ケアとはいえないでしょう。 歯牙のもうチョット外面に薄く広がっている表情筋・顔面神経支配筋肉群を活性化させることまでに視点を広げ、高齢者のQOLとリンクさせた医療や介護を勧めると「素晴らしい人生を送れた」と社会に満足して亡くなる受け手の高齢者が増加するはずです。これらを実行していく歯科関係者には、コンプライアンスを含め何も難しい問題点は存在しません。 ■歯科訪問診療とは一般的に在宅訪問診療といえば、「患者の生死に直結していること」と考えられてきました。しかし、誤解してはいけないことですが、歯科訪問診療は生死の問題からは遠く、むしろ美味しく食事することを含めた「人生最後の癒やし・喜び」という、QOLの向上・改善が診療目的といえます。患者家族も生死の境をさ迷う状況で、歯科医師に口腔内の治療をお願いすることはないでしょう。残念なことに、歯科医師の治療行為が「その患者の死のきっかけ」になるかもしれないと深読みし過ぎ、歯科訪問診療を躊躇している先生が大部分です。そしてまた、患者家族も歯科医師に依頼するのは義歯に関することばかりだと思い込み、歯科訪問診療依頼に躊躇しがちです。これからは「年を取ったら当然のこと」として無視されてきた「悩み」に注目していくべきです。今までの歯科医療に見落とされていた「ターミナルケアの考え方」が必要な時代になってきたのです。 ■不完全治癒の勧め今日までの歯科治療といえば、歯牙に対し「その歯牙の虫歯や歯周病を完全治癒させる」、「歯牙が欠損していれば義歯を入れる」。どちらにしても「咀嚼能力」の回復を目的とする、最終に「完全治癒」を目的としていました。しかし、明日をも知れない高齢者にとっては、咀嚼能力回復よりも、前述した優先するいくつかの「終(つい)の幸せ」を配慮することが必要だということを忘れてはいけません。これからの歯科訪問診療は、完全治癒を目的とするのではなく、老化による身体の衰えを少しでも遅らせてあげようという取り組みに方向転換してはいかがでしょう。 表情筋は内臓筋由来です。内臓筋と副交感神経とは密接な関係があり、口唇エキササイズすることで副交感神経の働きを鼓舞させます。口唇エキササイズを続けると唾液の分泌量が増え、食事が美味しく感じることなどは、よく知られたことです。高齢者の「癒やし力」を歯科関係者がサポートし、QOLを向上させてあげるべきなのです。 ターミナルケアとは、介護を受けていた高齢者が「終(つい)の時」を迎える時に、「社会の皆さんにお世話になった。ありがたいことだ。本当によかった」と感謝してもらうことです。そのためには、歯科関係者が「介護の輪」の中で、高齢者の表情筋を励ましてあげなければいけません。代わりができる人は、歯科関係者以外にいないのですから。 ■「口腔ケア」の第一義は「唾液量の増加」と「唾液蒸発の防止」口唇エキササイズは、口唇閉鎖・舌の挙上・舌骨と咽頭の位置変化を活性化します。誤嚥性肺炎予防や、摂食機能の改善にも、「口腔筋機能療法」と「口腔ケア」が大事です。口腔ケアの第一義は、「唾液量の増加」と「唾液蒸発の防止」です。歯ブラシやガーゼを使っての機械的清掃を第一と考えている歯科関係者は、疑問や違和感を持たれるかもしれません。 介護される人は毎食後、口腔内を清潔で過ごしたいはずです。しかし、現実にはマンパワーの問題から、せいぜい週2回程度口腔内の清掃を受けるのが「最善」の部類です。その程度で口腔内をいつもきれいに保てるはずもなく、口腔内は本人にとって不潔で不快なことでしょう。 ■傷つきやすいワルダイエル咽頭リンパ輪仮に、健常者と同じように毎食後に口腔内清掃補助を受けられるとしても、口腔奥部にあるワルダイエル咽頭リンパ輪が存在する軟口蓋や舌根の粘膜組織は、機械的刺激で傷つきやすく、機械的清掃が不可能なところです。健常者ならば唾液が汚れを洗い流し、きれいに保たれています。洗浄能力を有する唾液が、口呼吸によって常に蒸発、乾燥させられていると、同部は汚染されたままとなります。口腔内は、1ヶ所でも清掃不可能な部位があると舌が可動するので、汚れは口腔内の各部に運ばれていきます、舌を動かせば動かすほどに口腔内全体へと汚染は広がります。唾液の働きを重視していないケアでは、介護者をマンツーマンでサポートする関係者の真摯な努力の結果である「口腔ケアの成果」を、結果的に無といえるものにしてしまいます。そこで、口腔筋機能療法について説明します。 ■口腔筋機能は誤嚥も防止している読者の皆さん、本棚にある「摂食・嚥下」に関する本を手に取り、喉頭と気管が同時に写された症例写真を探してください。多くは口を開けさせていて、そこから写された写真はすべて、気管が開き食道の入り口は閉鎖された写真のはずです。口を開けたままでの食事の飲み込みは、ムセの原因になります。力強く口を閉じていないと気道は開き、食道の入り口は閉鎖気味になり、誤嚥気味に咳き込む症状を引き起こします。 ■摂食機能訓練は185点です口を閉じる動作は舌を挙上させます。これは、舌の下部にある舌骨と喉頭・気道・食道入り口も連動して位置を移動している状況を示唆します。この無条件反射がスムーズに起きて誤嚥が防止され、飲み込まれた食べ物を何事もなく食道へと送り込むことができます。閉じる力が弱ければ容易に誤嚥を生じやすくなり、思わぬ合併症を生ずることになります。これは口腔筋機能のほんの一部ですが、最も重要な反射機能なのです。 介護老人施設などでは誤嚥性肺炎を防止するために、食事時の姿勢や睡眠時の逆流性誤嚥に注意をはらっていますが、口と舌、気道と食道との口腔筋機能(摂食機能訓練185点で鍛えられます)も注目すべきです。睡眠時に口を閉じていれば唾液蒸発の防止となり、汚れを含む唾液は気道に流れ込まないようになります。この正常な反射運動がスムーズに起きるように、老化が原因で口唇閉鎖力の低下を生じている高齢者や下顎総義歯で顎骨アーチが矮小化してしまった、言い換えれば舌骨が下方に沈下しやすい高齢者には、睡眠時の呼吸量確保のためにも口唇閉鎖力強化エキササイズを奨励すべきです。 ■審美維持・回復顔の肌が張りを保っているのは、表情筋の大部分が速筋でなく遅筋で構成されている成果です。老人顔とは、表情筋の遅筋が老化で筋力が衰え、顔の肌(お腹のタルミに限らず全身の肌のタルミも同じことです)が重力に抗し切れず引き上げられなくなったシグナルです。高齢者であっても「張りのある肌」を持つと、周囲から褒められるのは自慢の種です。自分の持つ優越感は、ある種の「癒やし」ともなり、QOLの向上のための表情筋エキササイズを続けるモチベーション維持につながります。■終わりにいかに制度が変わろうとも、市民が心から喜んでくださることを続けていれば、世間は歯科関係者を放って置かないでしょう。 |
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