今こそ歯科医師が立ち上がるときです

はじめに

 「生活習慣病の多くが睡眠中の酸欠と関係している」との報告書「Wake up America(目覚めよアメリカ)」が1993年に、アメリカ医師会からアメリカ議会に提出されました。
 この報告は、当時世界を震撼させました。OSASによる睡眠障害が、慢性的な睡眠不足を招き、日中の猛烈な眠気によって、重大な事故を起こす原因となっているというのです。その中には、日常の交通事故はもとより、アラスカ沖タンカー事故やスペースシャトルチャレンジャーの事故など、驚くほどたくさんの重大事故が具体的に紹介されていました。
 近年になって、睡眠中におこる酸欠の根本原因の1つが「表情筋(特に口輪筋)の老化」によるものであることが明らかとなり、表情筋を活性化することで疾病を回避する予防治療法の確立が急務となっています。
 今こそ歯科医師は、「表情筋という歯科領域」の特色を活用した本質的予防医療を展開すべきだと、私は強く提言いたします。

本質的な予防医療の展開を!

 新規予防医療分野の確立は、逼迫(ひっぱく)する我が国の医療費増加の問題解決に大きく寄与するだけでなく、厳寒と称される歯科界の諸難問解決の突破口、つまり診療分野の開拓へとつながるものと考えられます。
 以下に、歯科界を取り巻いている早急に考慮すべき問題点を挙げ、その解決策としての表情筋という歯科領域の必然性を記します。

1.歯医者の超過剰時代到来

「従来からの広義による、いわゆる咀嚼維持や回復を治療とする母集団(患者数×患歯)は全国の歯科医師数と比すると、もはやあまりにも小さすぎるのです」
 厚生労働省の統計発表をご覧ください(表参照)。歯科への患者来院数は激増しています。日本歯科医師会以下会員を含め、皆さんの努力の結果でしょう。2003年から2005年までの3年間の来院患者数の伸びは、糖尿病患者の倍ほどの増加率です。歯科の患者が、高齢社会と糖尿病を含めた生活習慣病が強くリンクする疾病を大きく上回っているのは、歯科関係者の努力の結果ですが、この状況が今後も続けられるか不安が残ります。しかし、こんなに患者が増えているのに、なぜ歯科医師が患者減を肌に感じるのでしょう。患歯数が大幅に減少している現象が見えてきます。

2.医療費高騰による歯科医療費配分の低下

「医療費高騰が財政を逼迫していることから、医療費の見直しが断行されています。行政が、人の生命に直結するか・しないかの判断基準によって医療費の配分を決定した場合、歯科医療費は真っ先に削減に向かってしまいます」

3.貴金属価格の急騰による経営圧迫

「歯科医院経営で大きな比重を占める修復物の貴金属価格は、世界経済の動きにリンクしています。健康保険においての3ヵ月後に価格を見直すシステムでは、後追い価格決定となり、そういった対応の遅れは如何(いかん)ともし難く『持ち出し経営』に陥る危険性が高くなります。継続的な修復治療はどうしても経営悪化を招きます」
 患者の取り合いや報酬の低下、材料費の高騰と、歯科医院経営を取り巻く環境は最悪であるといっても過言ではありません。立地の良い場所に診療所を移したり、診療時間を延長したり、材料の安価調達に躍起になることで上記の問題は解決するのでしょうか? 残念ながら解決しないのは、皆さんもお分かりだと思います。
 大切なことは、新規市場(患者)を開拓することです。新規診療分野の開拓なくしては、共倒れするしかないのです。

新規診療分野の開拓へ向けて

 新規診療分野の開拓は非常に難しいことですが、市民のニーズが何かをよく考え、世間のニーズ(特に、厚生労働省の次期戦略的目標を知ること)がどこに向かっているかをリサーチすることで、自然とその答えは導き出せるものと思います。
 私の考える社会的ニーズに合致した2つの新規診療分野である「高齢者に対する在宅診療」「表情筋の筋力低下が原因となる疾病の予防」について、以下に記します。

--高齢者に対する在宅診療--

 我が国は、2025年には全人口に対する高齢者の割合は4分の1を超えると見積もられており、超高齢化社会に突入することが確実視されています。今後は、医者にかかりたくても「体の自由が効かない」などの理由で、医師にかかることができない患者が増えることが予想されます。つまり、在宅診療を希望する(高齢者の)患者が激増するのです。
 この際、歯科医師には「最高レベルの治療は必要としていないが、訪問診療という診察環境の悪化に対応するための診療技術の向上も必要」となるでしょうし、歯科業界には訪問診療専用の医療器具の開発も必要となると思われていましたが、Mパタカラが医療器具として認可を得たことで、一応メドが付きました。これらに適応できれば、診療所に来ることができない方々を、新規患者として開拓することができます。

--表情筋の筋力低下が原因となる疾病の予防診療--

 先にも述べましたが、睡眠中の酸欠が多くの疾病の遠因となっていることが明らかになりました。また、睡眠中の酸欠の原因の1つが、表情筋の老化であることも明らかになっています。表情筋が加齢によって低下することは明らかなので、今後訪れる超高齢化社会の到来は、表情筋の老化した疾病予備群の多き時代といえます。
 幸いなことに「表情筋の老化はトレーニングによって抑えることができる」ことが明らかになっており、高齢者の表情筋をトレーニングすることで、疾病予備軍の数を減らすことができるのです。
 2005年、政府は、医療制度改革大綱として、「健康とは治療するものではなく予防するもの」という永続的な医療制度の構築を目指す指針を打ち出しました。「運動・睡眠・食事」が健康維持には重要であると、これまでにも健康を増進する効果的な運動方法や機能性成分を多く含む食品の研究開発が行われてきました。
 睡眠においても、寝付きをよくしたり、首や腰への負担を軽くする効果を持つ快眠グッズが開発されています。眠れない、寝付きが悪い、すぐ目が覚めてしまう、睡眠時間が十分に取れないといった問題が、最も重要な睡眠障害として考えられていますが、真の意味での睡眠障害とは、「睡眠中の酸素不足とそれが原因で睡眠中の脳へのストレスが増加すること」であるとは、あまり認識されていません。睡眠障害によって自律神経のバランスが崩れてしまい、その結果として、各種疾病が引き起こされてしまうのです。
 まずは、歯科医師が一丸となり、表情筋という歯科領域の開拓を行うことです。そして、人が生きていくために絶対必要である「呼吸の確保の原点」を、歯科医師がしっかりと旗振りし、全国民の睡眠レベルの向上・改善を行うことができれば、睡眠障害患者数(疾病予備軍)が減少し、ひいては世間のニーズである医療費の抑制が実現するでしょう。

新規診療分野の拡大こそ危機打開の特効薬

 最後に、私は再度強く提言します。
 歯科医師は、今こそ「新規診療分野を増やす」ことが重要なのです。1つは「診療訪問に取り組むこと」。もう1つは「表情筋という歯科領域の開拓を行うこと」
 とりわけ歯科医師が表情筋に取り組むことで、それによる効果効能は、摂食機能訓練だけにとどまらず、アンチエイジングに関連する諸問題や睡眠時の呼吸・酸欠に関連する諸問題、睡眠ストレスによる諸問題、自律神経のアンバランスから起きる諸問題、脳血流に関連する諸問題など、挙げれば際限なく広がります。
 これだけ広い分野で歯科医師が実績を積むことができれば、その社会的効果は大きく、歯科医師に対する社会的尊敬はやがて大きな母集団となって帰結するはずです。
 数日前、私にとって素晴らしいニュースを耳にしました。10月初めに広島で開催したセミナーを聴講された先生が、早速3人の患者さんに歯科訪問診療を開始されました。「訪問のきっかけとして患者さんにMパタカラを贈呈」したそうです。贈呈というきっかけから始まった医療行為は、長期間の診療行為の始まりとなり、診療を継続する大義名分としていつまでも訪問が続けられることになります。そういった私の経験談を聞かれた先生が実行してくださることは、非常に嬉しいことです。「損して、得取れ」という格言があります。どうか皆さんも、小さな初期投資を惜しまずに、大きな成果を得てください。
 私は声を大にして皆様に申し上げます。
 今こそ歯科医師が立ち上がるときなのです!



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